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蚕絲館について

蚕絲館は群馬県安中市にある小さな製糸所です。

糸作りには上州座繰器という手回しの道具を使います。使用する繭は自分たちが蚕から育てたものです。

染織作家さまやメーカーさまに向けて、オーダーメイド仕様の絹糸を販売しています。

いま国内には、養蚕から手がけ、手回しの道具で生糸を製造して小売する事業者はほとんどないと思います。当館はワンストップで絹糸を製造することで、お客様の求める蚕品種、繰糸方法、撚糸仕様の糸をご提供しています。


沿革

座繰りをはじめたきっかけは、進学で京都にいたころに遡ります。わたしは20代半ばまで京都で染織の勉強をしていました。そのころ使っていた糸は、糸屋で購入した21中を合糸した絹糸や機械ひきのつむぎ糸でした。あるとき、それまでふれたことのない感触の古い着物を手にしました。その布は、さらっとした手ざわりとハリ、そして控えめで上品な光沢がありました。織りはシンプルな平織なのに自分で織るものと何かが違う。どうしたらそのような布が作れるのか考え、「糸」に何かあるのではないかと思いました。それまでのわたしは、織りの組織を学ぶことがもっとも重要だと考えていたのです。なんだ、そんなことかと言われるかもしれませんが、わたしには大きな気づきでした。

2001年、群馬県の赤城山の山麓で座繰りをするおばあちゃんを訪ねました。「よい糸とは何か?」と探しているなかで「赤城の座繰り糸」の存在を知ったのでした。糸屋に陳列する絹糸しか知らなかった私にとって、軒先の小屋でカラカラと回る歯車の音、黒くすすけた天井にたちのぼる白い湯気、繭が煮えるタンパク質のにおい、弓と鼓からほとばしる水、繭から糸が生まれる現場はお伽話のようでした。この現代の日本に「座繰り」という手仕事の技術が、生業としていまも息づいていることに驚きました。この座繰りが息づく世界に根を下ろして、おばあちゃんたちと一緒に座繰りをして生活したいと心に強く思いました。

そのあとすぐに群馬に移住し、製糸工場での勤務を経て、中之条町で知人らと蚕糸館を創業しました。

当初は糸作りを中心に活動し、繭は農家さんと契約して全量を購入していました。しかし数年でそれは難しいと知りました。農家さんが高齢で引退されたのです。このままでは持続的な糸作りもままならないと考え、養蚕を勉強し、2007年からは繭を自家生産するようになりました。養蚕は重労働ですが、原料の繭が生まれる現場に身を置くことで、当館の糸づくりは大きく成長したと感じています。


プロフィール

東宣江   Higashi Nobue

和歌山県出身。1976年生まれ。嵯峨美術短期大学テキスタイル卒業。

西陣織伝統工芸士の和泉博山先生のもとで植物染めと着尺織りの基礎を教わる。

群馬県主催の座繰糸技術者養成講習会受講。碓氷製糸農業協同組合に2年間勤務。薬王園にて1年間活動。

2005年 独立、「蚕絲館」主宰。座繰り糸の受注生産を始める。

2007年 蚕糸技術センター主催の養蚕体験講座参加。農家にて養蚕の研修を3期学ぶ。

2012年 結婚し夫婦で養蚕の規模を拡大。撚糸機導入。

2013年 桐生織都千三百年企画・新田義貞公、中黒古旗複製にあたり生糸製造に携る。

2014年 よりミャンマーの少数民族の就労支援活動に蚕糸技術の指導員として参加。

2016年 上野国一之宮貫前神社の式年遷宮祭・大神服の生糸製造に携る。

2017年 くらし手しごと舎 ton-cara にて蚕糸関連のワークショップを開始。

2020年 NHK連続テレビ小説『エール』にて養蚕指導。

2021年 NHK大河ドラマ『青天を衝け』にて座繰り指導。

執筆

  • 日本絹の里紀要 23号 2021年3月
  • 上毛新聞「視点オピニオン21」2010年〜2011年
  • これまでの 執筆紹介

講演など

  • 日本絹の里大学「上州座繰器とその糸について」講演 2020年
  • 安中学「生糸に魅せられて」講演 2019年
  • これまでの 講演紹介など