23日の農業新聞「養蚕過去最少113戸」を読んでつらつらと書く
2026-02-24
お客さまが2月23日付の日本農業新聞の一面ニュースを送ってくださった。
この記事を切っ掛けにつらつらと書いた。
見出しは「養蚕 過去最少113戸 — 高齢化で100戸割れ目前」
国内の蚕糸絹産業の技術向上や振興を長年つづけてきた財団法人・大日本蚕糸会にインタビューした内容。さすが、農家やその関係業態が読む新聞だから、課題が繭価格であることをはっきり書いている。
https://www.agrinews.co.jp/news/index/364159
養蚕農家は繭の生産量が1トンを超えると一目おかれる存在となる。かつては、そうした農家だけが入会できる「1トン会」というのがあった。15年くらい前の話だが、1トン会の会員だった元養蚕農家に会った。その方は、人生で一度くらいは生産量日本一になってみたいとがんばって、実際に成し遂げている。その農家に繭価格がいくらに上がれば養蚕を再開するか聞いたことがある。そうすると、当時の全国の繭平均価格の約2倍、生繭1キロ5000円になればと言った。現在の繭価格は15年前より若干は上がっているけれど、物価高を思うと実質値下がりしている。前述の農家が再開してもよいといった価格にもまったく達していない。
日本農業新聞の記事には「大日本蚕糸会の試算によると繭の生産費は1キロ4400円かかるが、実際の販売価格は1キロ2665円にとどまる。」とあった。
養蚕経営者の65%が70歳以上のため、毎年確実に2割ずつ農家は減っている。現存の養蚕経営者はどうやって赤字を補っているかといえば、他の作目などの利益を分配しているか夫婦の年金の半分を養蚕に注ぎ込んでいるのである。いま養蚕を続けている人は養蚕が好きな人と言っても過言ではない。しかし、いまのまま農家の忍耐力に頼っているだけでは戸数は減る一方だ。養蚕を担いたいと入ってくる人が資金が立ち行かなくなって数年で断念した話も何度か見聞きしている。働き盛りの若い人たちが農作目の1つとして養蚕を選択したくなる価格にならなければならない。
エンドユーザーにできることは、国産の絹製品を使うことだ。国産の絹製品を買う人が増えれば最終的には農家も潤う。だから、ぜひ純国産絹製品を手に取っていただきたい。
しかし、実際はなかなかに難しい。
繭価格が5000円になってもエンドユーザにはそれほど影響はないと思う。例えば呉服店に並ぶ反物の価格への影響はわずかな額だ。高級呉服を求める層にとっては気にならないだろう。
でも、国産生糸を購入してモノづくりをしている人にはその繭価格は生糸価格に直結するため(詳しくは補助金も有り少し違うのだけれど)、この値上げはかなり厳しい。わたしが身近にしている手織にも影響はかなりあると思う。作り手が業者へ販売する反物1反の価格には、材料費(生糸代、撚糸代、精練代、染料代など)・加工費(人件費、設備費、光熱費)などが掛かってくるわけだが、業者が反物を買い付ける価格も上がっていないように聞く。生産効率を上げる努力も、コスト削減して品質向上させるのも限界がある。そこに、もし生糸価格が次回から1キロあたり1万円値上げとなれば厳しい。
暗い話になった。
結局は回り回って、やはり国産の絹製品を買って楽しんでいただくことが一番という話に落ち着く。
原料の繭から全てが国内製造である製品を純国産絹として業界では振興している。有楽町にあるジャパンシルクセンターには国産絹製品が多く並んでいるので機会があったら立ち寄ってほしい。https://silk.or.jp/silkcenter/
着物や帯も全てではないけれど他の絹製品に比べて国産は多い。機屋や作家を応援するのも大事だと思う。人知れず国産原料を使っている方もある。それから、原料がもし外国産だとしても製造が国内だったらまずは良い。機屋や作家が潤えば、国産の繭や糸を使ってみようと考えてくれる人も増えるかも知れない。
当館自身はどうか。
当館も他の養蚕農家同様に農協にお世話になりながら養蚕を行っている。他の農家との違いは繭を出荷せず自家消費することだ。だから国内市場の繭価格の影響は少ない。
よほどのことがない限り、わたしは高齢で体が動かなくなるまでは養蚕と座繰りを続けたいと思っている。
そこにおいて危惧するのは蚕種の入手が困難にならないかという点だ。蚕種は国立の研究所や財団、群馬県、大学のほかに民間会社が全国に4社(福島1社、長野県2社、愛媛県1社)残っている。農家が113戸のいま、民間の蚕種会社にとってはすでにボランティアのような状態だ。蚕種会社がなくなると困るのは、蚕種の量産が研究機関ではできないことだ。1戸の農家は蚕を一度に数万〜数十万頭飼育するから同じ品種が大量に必要だし、蚕を目的の日時に卵から一斉に孵化させる技術も蚕種会社が得意とするところだ。
蚕種製造を自身ですればという意見もあるかもしれない。蚕種関連の法律が撤廃しているいまは自由だ。しかし容易いではない。原蚕種を入手すればできないことはないが、一個人で多くの蚕品種を維持する困難さや個体間で繁殖を繰り返すと近親弱勢のリスクがある。微粒子病などウイルスの防御もままならない。だから、蚕種会社には一日でも長く続けていただきたいし、その上でも養蚕農家の減少は大きな問題だ。
当館は製糸ができるから、製糸会社の動向も関係ないのではと思われるかもしれない。しかし、製糸会社が閉業すれば大量の繭の購入先が無くなり、農家が養蚕から撤退する。
すべては繋がっている。
わたしにとっていまの日本の蚕糸絹業は、携わる人々の良心によって辛うじて皮一枚繋がっているという肌感覚だ。
そしてわたしの仕事自体、先人たちが培ってきた土台があってこその賜物で、当たり前に享受している養蚕や糸に関する知識や技術、サービスも多くの協力者があってこそ成り立っているのだと改めて思う。