ホーム > 蚕糸帖 > 2023-06-17


最近の身辺雑記

2023-06-17

 かなり久しぶりに蚕糸帖を書きます。
大井川葛布さん主催のZoom レクチャー 蚕糸講座をスタートさせてから、これ以外で文章を書くことがおっくうになっています。それだけ真面目に取り組んでいるわけです。

 

そんな理由で投稿が少ないのですが、春蚕の飼育が終わり、最近の当館のことでも書いておこうかという気持ちになりました。


昨秋と今春は、上蔟室(母屋の2階)を改修しています。昨秋は大工さんに入ってもらい蔟を吊るす桁を頑丈な木材に替え、今春はコンパネ材の床にクションフロアをDIYで貼りました。

クッションフロアにした理由は、蚕の飼育環境を改善するためです。クッションフロアにすることでコンパネ材のときよりも掃除や消毒がしやすくなります。


DIYにした理由は予算を抑えるためでしたが、2階には養蚕道具やホコリだらけの資材物品がたくさんあるので、これを業者さんに移動してもらいながら貼れるのかという問題もありました。

春の養蚕が始まる2ヶ月以上前から作業を始めたのですが、他の仕事もしながらだったので、5月中旬に春蚕を家に迎えてからも床を貼る作業が続きました。
糸を吐き始めた蚕を入れる回転蔟の組立も終わっていなかったので冷や汗の日々でした。


それも、何とかかんとか事前に終えることが出来まして、今回ばかりは自分たちを誉めてあげたい気分です。

 

この改修を機に、2階中央部に鎮座していた大きな階段も取り外し、以前より飼育に使えるスペースが広くなりました。
 


それから、私はこの春から電動鋏を使い始めました。

以前から夫が電動鋏に関心があり、他の養蚕農家さんが使っている鋏を見せてもらっていました。


最初は夫がマキタの充電式剪定鋏を導入、その後も検討して、写真のkebtek の充電式電動鋏がリーズナブルで使いやすいと判断したようです。予備バッテリー1個を常備して作業をしています。


写真の商品にした理由は、安全装置が無いタイプということがあります。使用時は細心の注意が必要ですが、安全装置付きの引きがねは重いからです。養蚕は、1日でたくさんの枝を切りますから引きがねが重いことは指への負担が大きいです。中年のわたしたちはすぐさまバネ指になってしまいします。

 

わたしは電動鋏に気乗りしなかったのですが、確かに指への負担が軽減されました。特に春蚕期の桑の枝は太いので、すごく楽です。


蚕は5齢期の食欲が一生のうちの80%以上となります。飼育が終盤に近づくほど、蚕にはたくさんの桑を食べさせなければいけないので、お世話をする人間の体力は消耗して行きます。
ですから、収穫時の労働が少しでも軽減され、効率を上げられることは、すごく良いことです。

 

これ以外に、電動鋏を使って感じたことがあります。

それは、桑枝を鋏や鎌で切るときの技といいますか、コツは必要なくなる、関係ないということです。


コツは、これを体が憶えることでりきむことなく自然と枝が切れるようになり作業効率が上がるものです。切り方が上手くなると、切れ目が美しく、桑にも負担が少なくなる気がします。

電動鋏を使うにしてもコツは知っていた方が適切な仕事ができるのですが、知らなくても電動鋏が美しく切ってくれる。良いことであり、手と鋏で励んできた身としては複雑な気持ちも生まれる出来事でした。


桑畑では、周辺で3月と4月に霜が降りました。
被害が大きかった農家は飼育を休んだところもあります。当館も4月の霜で桑の一部が焼けましたが、少ない被害で済みました。

他、この辺りはかつて養蚕をしていた人が多く、飼育時期になると農薬散布に気をつけていただける恵まれた環境なのですが、農家ではない人にとってはわからないことなので、認知いただけるようにお伝えして行く取り組みが必要だなと改めて思うことがありました。


今春に飼育したのは、群馬県オリジナル蚕品種『ぐんま200(にひゃく)』です。当館の主力品種です。

この蚕品種は、養蚕を始めたときからずっと扱っていて16年目になります。

今年は何故だか例年では感じたことがないことがありました。いつもと比べて5齢期の蚕の食欲が大人しかったのです。


室温湿度は良好であったのに、飼育標準に照らし合わせると食欲最盛期間に例年より食が細かった。

そのため、もしかすると飼育日数を見誤っているのではないか、上蔟予定日に蚕が糸を吐き始めてくれるのか不安になりました。まだまだ学ぶことが多いです。

 

 他、ぐんま200では、あまりお目見えしない「姫蚕(ひめこ)」を多く見かけたことも気になりました。


 姫蚕は、体に斑紋がない蚕のことをいいます。

姫蚕が現れるときは「蚕が当たる = 豊作になる」と農家さんが話てくれたことがあります。昔からそう言うのだそうです。縁起物としてとらえているのです。好きな話です。個人的にも、姫蚕はおっとりしていて真っ白で、のっぺらぼうのようで不思議で愛らしいなと思っています。

蚕種製造の観点からすると、これまでと違う何か変化があったのだろうかと素人考えで気にもなりますが。


当館のお蚕たちは、予定日に無事に糸を吐き始めました。

 

食が細かったので、例年よりほんの少し小ぶりの繭が多かったと感じます。ですが目立った蚕病もなく、繭の収穫時に行う検査では死にごもりもありませんでした。
健康的な良い繭です。


さて、養蚕のワークショップについては、当館は2017年からton-cara さんと組んで体験講座を開催しています。

 

今年はコロナ禍がかなり緩和されて、春蚕の参加者さんはここ数年で一番多かったと思います。他にも、久しぶりにアメリカから silk sutudy tour の皆さんが来館くださいました。 


現在、養蚕ワークショップとしては繭の収穫が終わり、生繭を用いた座繰りワークショップが開催中です。

 

写真は生繰りの初日にお客様が作られた生糸です。

「ぐんま200」は白い繭をつくる蚕品種の中でも白さが一番というほど高いです。

その上で生繭を用いていますから、糸は瑞々しくうっとりします。


当館は、養蚕ワークショップを始めてから参加者の皆さんに余裕を持ってご案内できるように蚕の飼育数を3万頭くらいにセーブしています。
しかし、昨年繭不足になった関係で、この春は久しぶりに少し増やして 4万5千頭を飼育しました。

 

養蚕をご存知ない方からすると多く感じるかもしれませんが、この数は養蚕農家としては最小規模です。


今日は、ワークショップ内では時間が足りず収穫しきれなかった分を夫婦で繭かきしました。

ワークショップに参加くださった方々は、これから繭を使って糸を作り染め織りしたり、真綿をつくったりされると思います。

 

私も、皆さんの生繰りを見届けたら、注文いただいている糸の製作に入ります。